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広島高等裁判所岡山支部 昭和36年(ラ)12号 決定 1962年2月16日

抗告人 安原真平 外一名

訴訟代理人 近成寿之

主文

原決定を取消す。

本件競落を許さない。

理由

本件抗告の要旨は別紙記載のとおりである。

抗告人等は、本件競売において担当執行吏は午前十時四十五分に競買価額申出を催告しながらそれより満一時間の経過を待たずに午前十一時四分に競売期日を終局したのであるから右手続は民事訴訟法第六百六十五条第七項に違背する旨主張するから、この点について按ずるに、本件記録中の不動産競売調書には、担当執行吏田枝雅夫は「昭和三十六年四月二十五日午前十時競売価額の申出を催告した」旨の記載が存するので、右競売調書に民事訴訟法第百四十七条の準用があるか、換言すれば、競売の方式に関する規定の遵守は同調書のみによつて証すべきもので反証を許さないものであるかどうかが、先ず問題とされねばならないのであるが、右同条に規定する口頭弁論調書は立会書記官が独自の権限をもつて作成し、口頭弁論を主宰してその調書の正確性を確保した裁判官とともにこれに連署するものであるに反し、競売調書は期日における手続を主宰した執行吏において自ら作成するものであつて、その性質及び作成方式等の点において著しく異なるところがあるのみならず、同法第六百七十七条第二項は競落期日の調書についてのみ右第百四十七条の規定を準用していること等の点を考慮すると、不動産競売調書には民事訴訟法第百四十七条の規定を準用する余地はなく、従つて反証を許すべきものと解するを相当とするところ、証人田枝雅夫(第一回)同安原健造(第一、二回)同寺山寅一の各証言を綜合すれば、本件競売期日である昭和三十六年四月二十五日午前十時に担当執行吏田枝雅夫は競売の場所である岡山地方裁判所倉敷支部執行吏役場に臨場していたが、当時参集人がなかつたため、同日午前十時四十分頃に至り、折柄同役場前に参集している安原健造、佐藤秀二、朝倉謙二、真野徳一、真野二郎等を呼入れて、初めて現実に口頭で競買価額申出の催告をなし、その後本件競落人である真野徳一の競買申出を受けて同人をもつて最高価競買人となしたうえ午前十一時十分競売期日の終局を告知したことを認めることができる。右認定に反する甲第二号証の記載内容証人田枝雅夫(第二回)同真野徳一の各証言はいずれも措信し難く、他に右認定を覆えすに足る何らの証拠もない。

そうすると本件において催告のなされたのは同日午前十時四十分頃であるというべきところ、本件担当執行吏は右催告の時より満一時間を過ぎない午前十一時十分に競売期日の終局を告知したのであるから、右競売期日における手続は同法第六百六十五条第二項に違反するものというべく、従つて、右期日における競買人真野徳一に対し競落を許した原決定は、爾余の抗告理由について判断するまでもなく、既にこの点において違法であり、取消を免れないものである。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柴原八一 裁判官 柚木淳 裁判官 長久保武)

抗告の趣旨および理由

抗告の趣旨

一 昭和三六年四月二七日岡山地方裁判所倉敷支部のなしたる競落許可決定はこれを取消す。

との御裁判を求めます。

理由

一 申立人安原真平は本件競売期日たる昭和三六年四月二五日午前十時前記競売の場所である岡山地方裁判所倉敷支部執行吏役場に出頭したところ競買希望者は

1、都窪郡早島町大字早島二七六 安原健造氏

2、同郡同所一三六四 寺山寅一氏

3、岡山市巖井一〇〇 朝倉謙二氏

4、岡山市下片上町五一 藤井長氏

5、都窪郡妹尾町大字箕島 真野徳一氏

外申立人安原真平の友人

都窪郡妹尾町大字南之町佐藤秀二氏債権者代理人宮本弁護士及び真野徳一氏の実弟真野二郎氏等が参集していた。

二、そこで担当執行吏田枝氏は当日午前十時四十五分に至り各買受け希望者に対し競買の申出を催告した。買受希望者は一応公告価格で競買申込みをしたところ、本件競売は一括競売でないから建物のみについて前記朝倉謙二氏が公告価格で競買申出をしたところ、債権者の代理人は一括競売してくれと申込んだが担当執行吏は一括競売としての公告がしてないから一括競売は出来ないと拒絶したので、債権者の代理人は本日の競売は延期する旨主張したので、右執行吏は競売を延期するなら競買申出人その他関係人はこの室から出てくれと言うので止むなく前示競買申出人等は、同室を出たところ、債権者代理人と真野二郎氏が後に残つて出て来ないので不審であるから約十分程して後に引き返したところ、以外にも真野徳一氏名義で公告価格で競落され競売は当日の午前十一時四分に終局したと言うのであるが、延期と言う口実に基いて、多数の競買を欲した申出人を退室させて、密かに競売が実施された事実は明らかに幾多の違法不当の競売実施と認めざるを得ない。

第一の理由は、一層高額に競買しようと欲した者が数名競買の申出をなしたるにかかわらず、本日の競売を延期すると言うことで競買申出人を錯覚に陥し入れ、これ等の者を退室させて、密かに特定の者をして競落をなさしめたことは公売の本質に反するものである。

第二の理由は、本件競売が担当執行吏において、午前十時四十五分に競買申出を催告し、前述記載の理由により多数の競買申出人を競売場より追い出し、午前十一時四分に競売が終局したと言うことは、民事訴訟法第六百六十五条第二項に違背し競落を許すべきものでないと信ずる。

第三の理由は、本件につき多数の競買申出人を追い出し、特定の人に競落させたことは申立人等として自己の競売の目的物件が不当に安売りされたことは、債権者及び債務者の利益を侵害された結果となり、甚だしく反社会的経済上誠に好ましくない不当行為である。従つて、かかるいきさつと経過をたどつた競落は許さるべきでないと信ずる。

第四の理由は、申立人と塩津イ製品協同販売組合間における昭和三四年三月九日契約、同年六月四日岡山地方法務局吉備出張所申請受付第一、三一九号、債権額金二百万円也の金銭消費貸借抵当権設定契約はその後、当事者間において昭和三四年六月四日にその償還方法について更改の契約が成立し、申立人より塩津イ製品協同販売組合に対し、昭和三四年四月九日を初回として、毎月末日に金四千円以上を内入弁済し期限に完済することとし、若し期限までに完済し難い理由を生じたるときは、期限前に更に協議して完済の方法を講ずる旨の更改契約をなし、申立人等は右更改契約の本旨に従い弁済を履行して来たものである。

三、然るに、塩津イ製品協同販売組合は既に失効した前契約を不履行したということにより、不法の抵当権を実行して来たものである。若し仮りに前記最初の契約が有効なりとするも弁済期日は昭和四四年三月九日であつて、申立人等はその余の契約を違背した事実もないから、未だ弁済期日は未到来であつて、本件競売申立自体が違法な申立である。

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